私が最も好きな時代小説家である、隆慶一郎氏の作品を紹介します。
隆慶一郎作品の魅力
「男が憧れる男」を魅了たっぷりに描く作家さんです。元々はテレビ等の脚本家として(本名の池田一朗で)活躍されていた方で、小説を執筆したのは晩年の5年ほどの短い期間だけでした。病で他界されたので、後期の作品には未完や改定予定だった作品もあります。しかし、未完だからと読まないのは勿体ない俊作揃いで、急逝されたのが残念でなりません・・・。
隆氏の描く物語は、可能な限り資料を集め、その事実を土台にして描かれています。しかし、ただ資料を鵜呑みにするのでは無く、数々の資料の中にある矛盾や不整合を、作者なりの解釈で精査して取捨選択して採用し、資料に残っていない余白の部分を伝記小説的な発想で魅力たっぷりに描いています。
また作品世界を構成する中で重要なのが、従来の歴史では注目されることが無かった、決まった住居を定めずに日本全国を放浪して生活する「道々の輩」(みちみちのともがら)と総称される人達の存在です。今に残る歴史の多くは、国を統治する為政者側の視点によって記述されていますが、それとは真逆の迫害され歴史の影に埋もれていた人々にスポットを当てています。そんな人達の様々な思いが、物語を動かす重要な原動力になっているように感じます。
加えて作中では、既存の資料と異なる解釈を描く時には、キチンと理由が明記されています。それに説得力があるので、ご都合主義のような感じはまったくありません。その辺にも好感が持てます。
隆氏の作品に少しでも興味があるのでしたら、是非とも読んでみて欲しいです。
作品世界の歴史観については、網野善彦氏を代表とする中世近世史研究の思想がバックボーンとなっているらしいです。私は不勉強で詳しく説明できませんが、それまで農業中心で考えられて来たイメージを覆す内容のようです。
中世日本史を専攻する網野善彦氏の著作は多々あるようですが、例として読みやすそうな書籍を1冊ピックアップしておきます。ちなみに私は読んだことがないので、あしからず・・・。
日本の歴史をよみなおす(全) (ちくま学芸文庫) Kindle版
初めて読むのにお勧めの作品
隆氏の作品を初めて読むなら、デビュー作である「吉原御免状」をお勧めします。この作品には、後の作品にも繋がる重要なエッセンスが数多く盛り込まれています。気に入って貰えたら、続編「かくれさと苦界行」もあります。
もし普段から小説を読む習慣が無くて、長い作品を読むのに抵抗がある方でしたら、短編集「柳生非情剣」を勧めます。どの章から読んでもネタバレなどの問題はないので、有名な「柳生十兵衛」を主役にした「柳生の鬼」からでも読んでみて下さい。
または、マンガ「花の慶次」をご存知の方でしたら、原作である「一夢庵風流記」を勧めます。私も花の慶次をキッカケに隆慶一郎氏を知って大ファンになりました。マンガ版を超える魅力が詰まった作品だと自信を持って断言できます。
これらの作品が気に入って貰えたら、最長編である「影武者徳川家康」を読んでみて下さい。読み終わる頃には、あなたも隆氏作品のファンになっているハズです(私の勝手な願望ですが・・・)。ただし、初めから「影武者徳川家康」を読むのはお勧めしません。先に「吉原御免状」を読むことをお勧めします。
コミカライズ版のお勧め作品
隆氏のコミカライズ版でイチオシなのは、「横山光輝作画 捨て童子 松平忠輝」の全7巻です。原作を忠実にコミック化してあり、小説を読まずして隆氏作品の魅力を知ることが出来る良作です。 残念ながら、コミカライズ版は電子書籍化されていません(2023年3月時点)。今では新品を目にするコトもないので、入手するなら中古本になるでしょう。
次点は、「原哲夫作画 花の慶次 ―雲のかなたに―」の全18巻(文庫版は10巻)です(原作は「一夢庵風流記」)。1部のストーリーが原作と異なります(コミックでの琉球編は原作に無く、原作にある朝鮮編がコミックに無い)が、原作のエッセンスは十分に伝わります。
原哲夫氏はその他にもコミカライズを行っていますが、個人的な感想としては、原氏自身の作風が強く出すぎている面や、原作とは違うストーリー等が気になります。(えっ、「前田慶次 かぶき旅」ですか? 隆氏が原作の作品では無いので読んだことがありません・・・)
隆慶一郎氏の作品一覧
初版が発行された年代順となっています。巻数は1巻のみの場合は空白です。(「かくれさと苦界行」は「鬼麿斬人剣」より後に発行されたようですが、「吉原御免状」の続編なので順序を入れ替えて記載しています)
タイトル | 巻数 | 初版発行年 | 発行社 | 備考 |
吉原御免状 | 1986年 | 新潮社、新潮文庫 | ||
かくれさと苦界行 | 1987年 | 新潮社、新潮文庫 | 「吉原御免状」続編 | |
鬼麿斬人剣 | 1987年 | 新潮社、新潮文庫 | ||
柳生非情剣 | 1988年 | 講談社、談社文庫 | 短編集(6篇) | |
一夢庵風流記 | 1989年 | 読売新聞社、新潮文庫、集英社文庫 | ||
影武者徳川家康 | 2~3巻 | 1989年 | 新潮社、新潮文庫 | |
捨て童子・松平忠輝 | 3巻 | 1989~90年 | 講談社、談社文庫 | |
柳生刺客状 | 1990年 | 講談社、談社文庫 | 短編集(5篇) | |
死ぬことと見つけたり | 2巻 | 1990年 | 新潮社、新潮文庫 | 未完 |
花と火の帝 | 2巻 | 1990年 | 日本経済新聞社、講談社文庫、日経文芸文庫 | 未完 |
かぶいて候 | 1990年 | 実業之日本社、集英社文庫 | 短編集(2篇・エッセイ・対談) | |
駆込寺蔭始末 | 1990年 | 光文社、光文社文庫 | 未完かもしれない? | |
見知らぬ海へ | 1990年 | 講談社、談社文庫 | 未完 | |
風の呪殺陣 | 1990年 | 徳間書店、徳間文庫 | 改稿予定だったが、隆氏急逝によりそのまま発刊 |
1990年に発行された作品が多いのは、1989年の後半に隆慶一郎氏が病で急逝されたことが原因だと思われます。
蛇足情報。私の地元にある市営図書館には、「隆慶一郎全集(全19巻)」が置いてありました。購入までする気は無いが、1度読んでみたいと思われる方は、図書館に隆氏の作品が置いていないか探してみてはどうでしょうか?
吉原御免状・かくれさと苦界行
生まれて間もない頃に宮本武蔵に預けられ、共に肥後熊本の山中で育ち、その剣術を受け継いだ剣士・松永誠一郎。武蔵の没後、遺言に従い江戸・吉原を訪ねた誠一郎は、吉原と裏柳生の「神君御免状」をめぐる暗闘に深く関わることになる。裏柳生が執拗に狙い続ける「御免状」の秘密とは? なぜ吉原は「御免状」を必死に守るのか? そこには互いの存亡をかけた理由が隠されていた・・・。
隆慶一郎氏の作家デビューとなる「吉原御免状」と、その続編である「かくれさと苦界行」。後の作品でも描かれる「道々の輩」「天皇家」「徳川家」「柳生一族」といった題材は、この時点からすでに物語の重要なキーになっています。
また舞台が「吉原」となっている関係上、人の「惚れた腫れた」について語られるシーンも多々ありますが、私が特に印象深いのは、「かくれさと苦界行」での特殊な身体的特徴を持ったお客についてのエピソード。相方を誰にするかで悩む人達に幻斎が語る「男女の心の機微」に、深く共感させられました。
私が隆慶一郎氏の作品を読んだことの無い人に1番最初に勧めるとしたら、この2作か短編「柳生非情剣」のどちらかです。長編を読むのが苦にならなければ「吉原御免状」「かくれさと苦界行」を。とにかくチョットでも良いので知って欲しい場合には「柳生非情剣」を推します。
それと、本作で題材となる「徳川家」や「天皇家」を更に深掘りしている作品である「影武者徳川家康」や「花と火の帝」よりも先に読むことをお勧めします。「柳生非情剣」も「柳生一族」を深掘りした内容ではありますが、物語のネタバレ等は無いので先に読んでも問題ありません。
鬼麿斬人剣
名刀工・源清麿の弟子である鬼麿。亡き師匠が残したことを後悔する「数打ちの駄刀」を、全て回収・破棄する旅に出る。 源清麿に恨みを抱く伊賀者に追われつつも、並の剣士を遥かに凌ぐ”試し剣術”を駆使する鬼麿の斬人剣の旅が続く。
武士と刀工にとっての「刀」をメインテーマに描かれる物語。単なる武器では無い、「武士の魂である刀」への理解が深まる作品ではないでしょうか? 刀鍛冶としての師弟の心の機微も印象に残ります。
柳生非情剣
徳川の治世で生きた柳生一族の6人を主人公として、「剣士の苦悩」を描いた短編。それぞれ単独の作品ですが、別の話の主人公とも密接に絡む話が多いです(だからといって、読む順序を気にする必要はありません。どの話から読んでも、特にネタバレ等で面白みが薄れる心配はないと思います)。同じ柳生の一族とはいえ、それぞれが抱える思いは多種多様で、まったく飽きずに読めると思います。
- 慶安御前試合(柳生連也斎)
- 柳枝の剣(柳生友矩)
- ぼうふらの剣(柳生宗冬)
- 柳生の鬼(柳生十兵衛)
- 跛行の剣(柳生新次郎)
- 逆風の太刀(柳生五郎右衛門)
短編とはいえ、描かれる内容は濃密です。登場人物の心の機微が深く細部まで感じられる良作だと思います。普段、小説を読む習慣の無い人に隆氏の作品を勧めるなら、迷わずこの作品です。 隆氏作品では悪役として登場するケースの多い柳生一族ですが、隆氏の柳生に対する思い入れの強さが感じられる内容だと思います。
一夢庵風流記
少年ジャンプ連載「花の慶次 ―雲のかなたに―(作画、原哲夫氏)」原作の作品。私はこの作品をきっかけに隆氏のファンになりました。戦国の乱世を「傾奇者(かぶきもの)」として生きた前田慶次郎利益(利太とも書く)の生き様を魅力たっぷりに描いた作品です。
織田信長の配下であった滝川一益の縁者であったといわれる前田慶次郎。織田-豊臣-徳川へと移り変わる時代が物語の舞台となっています。私の中で「男が惚れる男」と言えば、真っ先に浮かぶのは慶次郎です。
私は原氏のコミカライズ版よりも、原作「一夢庵風流記」の方が大好きです。「花の慶次」を好きな人には、是非とも原作を読んで欲しい。コミックでは描き切れなかった心理描写だけでなく、ストーリーにも差異(コミックでの琉球編は原作に無く、原作にある朝鮮編がコミックに無い)があるので別の楽しみがあります。
実現はしませんでしたが、続編の構想もあったようです。情報源がどこだったか忘れましたが、確かに記憶にあるので、出典を見つけたら追記します。
影武者徳川家康
徳川家康の影武者となった世良田二郎三郎元信を中心に、徳川政権の基盤が築かれる中で起きていた激しい暗闘を描いた作品。史実をベースとしながらも、大胆な仮説を元にストーリが展開します。
完結済みの中では最長の作品で読み応え十分です。原氏によるコミカライズ版やTVドラマ版なども制作されましたが、個人的には原作の魅力を描ききれていないように感じました。コミックやドラマ等で少しでも興味のある人なら、是非とも原作を読んで欲しいと思います。
この作品を読むと、これまで盤石と思っていた徳川政権の樹立が、実は「徳川家康」個人の圧倒的な力量が無ければ成立しなかったであろうという見方に変わりました。戦国末期の政治劇をベースとした優れた物語だと感じます。 また作中では、悪役である徳川秀忠ですら、ある意味、家康の才能の1部を継承する人物(才能というより性質かも)として描かれているのも興味深いです。
史実ベースでありながら、ここまで独創性あふれる魅力的な作品が書ける、隆氏の凄さが凝縮された作品ではないでしょうか?
捨て童子・松平忠輝
徳川家康の6男である松平忠輝の、幼年から青年期になるまでを描いた作品。生まれて直ぐ、家康に「鬼っ子」として忌避され数奇な運命に翻弄されながらも、持ち前の圧倒的な才能でたくましく生き抜く忠輝が素晴らしい作品。
新装版 捨て童子・松平忠輝(上) (講談社文庫) Kindle版
新装版 捨て童子・松平忠輝(中) (講談社文庫) Kindle版
新装版 捨て童子・松平忠輝(下) (講談社文庫) Kindle版
作中での「鬼っ子」とは、神に愛された能力を持つような優れた人物として描かれますが、必ずしもそれが幸福とはいえない面もあるのが皮肉な話。多くの人に嫌われるが、1部の人により好かれることで助けられながら危機を乗り越え、波乱の人生を歩む忠輝の生き様が魅力の物語。 描かれる時代が「影武者徳川家康」と同時期ですが、両作はリンクしていない独立した内容となっています。また「花と火の帝」とは一瞬だけニアミスする場面がありますが、こちらも内容はリンクしてはいません。
この作品には、横山光輝氏によるコミカライズ版があり、原作の魅力を余すこと無く描いた良作です。小説を読まない人にも自身を持ってオススメできます。またコミック版が好きなら、原作も間違いなく好きになるでしょう。
残念ながら、コミカライズ版は電子書籍化されていません(2023年3月時点)。今では新品を目にするコトもないので、入手するなら中古本になるでしょう。
蛇足情報。横山光輝氏のコミカライズ作品は多々ありますが、特に歴史小説をコミカライズした物が素晴らしいです。中でも「三国志」などの中国の歴史を題材にした作品は有名ですが、日本の戦国武将を題材にした物(原作は山岡荘八氏や新田次郎氏など)も多く出版されています。
柳生刺客状
短編集。収録されている物語同士の関連性は特にありません。
- 柳生刺客状
- 張りの吉原
- 狼の眼
- 銚子湊慕情(中村座/猿若町/玄冶店)
- 死出の雪
「柳生刺客状」は「影武者徳川家康」の1部を抽出したような、柳生宗矩が主役のエピソードとなっています(もしかしたら、こちらが先かも??)。また「銚子湊慕情」は隆氏急逝により描かれなかった、長編作品の冒頭部分を掲載した作品です。他にも3作品あり、短いですが隆氏のファンなら楽しめる内容だと思います。
死ぬことと見つけたり
佐賀鍋島藩の武士である斎藤杢之助・中野求馬・牛島萬右衛門を中心に、葉隠武士の活躍を描いた未完の長編作品。未完なのが本当に勿体ない素晴らしい作品で、隆氏の急逝がつくづく惜しくてなりません。
佐賀鍋島藩は、元々が戦国時代の龍造寺氏から派生した藩で、複雑なお家事情を抱える藩。また俗に”葉隠武士”と呼ばれる藩の武士も独特の思想を持っている。 そんな藩が、時の老中(江戸幕府の重臣)である松平伊豆守信綱に目の敵にされたり、お家騒動が勃発したりと、藩は幾度も存亡の危機に合う。しかし杢之助ら葉隠武士の活躍により、数々の危機を予想外の手段で切り抜ける。
未完だからといって読まないのは損だといえる魅力的な作品です。下巻の巻末では、「結末の行方」として、描かれなかった今後の展開を編集部が分かる範囲で開示しているので、ザックリとした結末を知ることもできます。
花と火の帝
16歳の若さで天皇に即位した後水尾天皇と、その天皇を影から支える伝説の存在、「天皇の隠密」を描いた作品。
古くから天皇の輿をかつぐ役目を勤めていた「八瀬童子」の一族である岩介を中心として、徳川幕府からの圧力にさらされる天皇を支える人達の活躍に、胸が熱くなる物語です。天皇を支える人の数はあまりに少なく、幕府と対抗するには厳しすぎる状況。そんな逆境でありながらも、後水尾天皇は岩介達に「不殺」を願う。その根底には、天皇家が代々育んできた尊い精神があった・・・。
初めは岩介個人から始まった「天皇の隠密」。徐々に仲間が増えてきて、それと共にストーリーも盛り上がって来た所で、未完のまま終了となってしまいます。未完なのが本当に惜しい!! 続きが気になって仕方がない・・・物語がドコに着地するのかが知りたい。
未完なのが凄くモヤモヤしますが、それは描かれている部分が面白いからこそなのです!! 間違いなく良作です。
かぶいて候
短編2編とエッセイと対談を収めた作品。表題の「かぶいて候」は未完となっています。この作品には電子書籍版がありません(2023年3月時点)。
- かぶいて候 (未完)
- 異説 猿ヶ辻の変
- わが幻の吉原 (エッセイ)
- 対談・日本史逆転再逆転
「かぶいて候」は、水野日向守勝成・成定・十郎左衛門の三代を描く予定だったらしく、全体の3割程度を書いた所で未完となっているらしい。「異説 猿ヶ辻の変」は、幕末に起きた攘夷激派の公卿である姉小路公知卿の暗殺事件の犯人を調べる物語。当時の混迷する政治状況の一端を描いている。
エッセイと対談は、隆慶一郎氏が作品を書いた背景を知ることができるという意味で、興味深い内容となっています。隆氏の作品が好きな人なら、読んで損はない作品だと思います。
駆込寺蔭始末
江戸時代に駆け込み寺として有名だった、松ヶ岡東慶寺。その寺前に店を構えるせんべい屋を営んでいて、実は「忍びの者」である”麿”を棟梁とする3人が、駆け込み寺に逃げ込んでくる女性を救う”蔭始末”を描いた作品。
この作品には電子書籍版がありません。(2023年3月時点)
1話完結の形式で、全4話が収録されています。まるでTVドラマ用に書かれた物語のような感じがする作品です。とはいえ、TVでは描けないようなアダルト描写もありますが・・・。
私はハードカバー版を所有しているのですが、後書きも無くてアッサリし過ぎな感じがするのは、気のせいでしょうか? 編集者にやる気が無い?? 少し物足りない感じがします。個人的な推測ですが、まだ完結していない作品なのかもしれません。詳しいことは、作品背景に関する説明がどこにも無いので謎ですが・・・。
見知らぬ海へ
武田水軍の一員である向井一族の跡取りである向井正綱は、武田家の没落と共に危機に陥る。最悪の状況下で向井一族の水軍大将となった正綱は、弱小水軍を率いて戦国時代を駆け抜け飛躍していく。
レジェンド歴史時代小説 見知らぬ海へ (講談社文庫) Kindle版
戦国時代では描かれることの少ない”水軍”を描く作品。主人公の正綱は、居城が徳川軍に強襲された時に釣りに出ていて、大事な時に不在だったという後悔を抱えた所から物語がスタートする。その悔しさをバネに活躍し、大きく成長する様が好印象です。
物語は題名である「見知らぬ海へ」と至るキッカケになるであろう事件の始まりで、未完のまま終了してしまいます。戦国末期を水軍の視点で描くという興味深いストーリーが、いよいよ本格的に動き出そうという場面で途切れることになり、惜しくてなりません。ここから壮大な物語に発展しそうだったのに・・・。
未完なのが勿体ないですが、描かれた内容だけでも魅力たっぷりです。ぜひ読んでみて欲しいと思います。
風の呪殺陣
本来は改稿予定だった物語なのですが、隆氏の急逝によって、そのまま出版された作品です。それというのも、隆氏が今作の取材で寺院を訪れた際、高僧の方から「仏教が人を殺すかあ!」との”凄まじい一喝”を受け、初めに書いた物語に納得ができなくなったのが原因のようです。(詳しくは、本書の後書きと、別書「かぶいて候」に収録されている「対談・日本史逆転再逆転」に書かれています)
この作品には電子書籍版がありません。(2023年3月時点)
戦国時代、比叡山延暦寺で修行中だった若き僧の昇運は、織田信長による「比叡山の焼き討ち」に巻き込まれる。辛くも逃げ延びた昇運は、信長への深い憎悪の念に取り憑かれてしまう。復讐に駆られる昇運がたどる先は・・・。
物語では、復讐心によって仏の道から外れる昇運と、同門だったが別の道を進むことになる好運の2人が、対象的に描かれています。 改稿されていたらどういう結末だったのかが気になりますが、そこは謎のままです・・・。
番外編、「時代小説の愉しみ」
この作品は”エッセイ集”となっています。色々な紙面などに掲載された物を、まとめて本にした物です。
エッセイの題材は多種多様で、時事ネタから歴史関連まであります。小説では無いので「作品一覧」からは除外していますが、隆氏の人となりに触れることのできる本ですので、ファンなら読んでみて損はないと思います。
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